AIアナウンサーによる音読▼
このコラムで伝えたいこと
①2026年施行の法改正により、都市部に眠る老朽化タワーマンションの再生が現実的に。
②「解体・売却」「隣地との統合再開発」「改修」など選択肢が広がり、投資家が出口戦略を柔軟に設計できる時代に。
③長期保有戦略にとっては、収益性・資産価値の両面で魅力が増すフェーズに入った。
都市部に眠る老朽化タワーマンション。その再生を阻んできたのが、厳しすぎる意思決定ルールと制度の硬直性でした。
2025年5月に成立し、2026年4月に施行予定の「改正マンション再開発促進法」(正式名称:建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律)により、「建替え・解体・改修」など多様な出口が選びやすくなり、再開発の道筋が大きく変わろうとしています。
タワーマンション投資を検討される皆さまにとって、今まさに“仕込み”の時期なのかをご一緒に読み解きましょう。
老朽化マンション問題、なぜ今注目?
日本の都市部では、分譲タワーマンションも含めた集合住宅の“老朽化”が深刻な課題となっています。
例えば、築40年以上のマンションストックは全国で約136万戸に上り、今後10年で2倍、20年で3.4倍まで増加するとの予測も出ています。 背景には2つの「老い」があります。
マンションにおける2つの老い
①建物自体の老朽化(耐震や設備更新など)
②所有者・居住者の高齢化・所在不明化
――この2つが合わさることで、理事会の機能不全、修繕積立金の負担増、建て替えの合意形成停滞といった構図が生まれてきました。
従来、タワーマンションを含めた再開発・建替えを実現するためには、区分所有者全員、あるいは非常に高い割合の同意が必要で、時間とコストが非常にかかるというボトルネックがありました。
こうした課題を背景として、今回の法改正の議論が進み、老朽化マンションの「出口」の選択肢を増やし、再生を促す制度設計へと転換が図られています。
タワーマンション市場の視点から言えば、管理義務の重さ・建物寿命の懸念・資金調達の難しさが“買い手が慎重になる理由”でしたが、この改正はそれらに対する構造的な対応である点が重要です。
2026年4月の改正法の主なポイントを整理
今回の法改正(施行は2026年4月1日予定)には、いくつかの重要な制度変更が盛り込まれています。まず、意思決定手続きの緩和です。
例えば、従来は建替えなどの決議に「区分所有者の4/5以上(=80%)」「議決権の4/5以上」の賛成が必要とされていたところ、耐震性など問題のある建物では「区分所有者の3/4以上(=75%)」まで引き下げられています。 さらに、災害被害を受けた建物の場合などでは「議決権の3分の2以上(=約66.7%)」という更に緩い基準が設けられています。
次に「参加主体と出口選択肢の拡大」です。従来、建替えの選択肢は“全面建替え”が主でしたが、改正法では「建物・敷地の一括売却」「建物解体+敷地売却」「建物全体改修」といった多様な再生モデルが認められています。
また、隣接地所有者や底地権者なども再開発に参加可能とし、敷地を広げて事業性を高める制度的な後押しもあります。加えて、経済的インセンティブとして、容積率の特例や高さ制限の緩和も導入される予定です。
地方自治体の権限強化も見逃せません。危険状況にあるマンションに対して報告徴収・勧告・管理者選任(財産管理制度)といった行政介入の仕組みが整備されます。
このように、改正法は「意思決定しやすくする」「出口を増やす」「参加者を増やす」「行政の役割を強化する」という4本柱を軸としています。
タワーマンションという大型集合住宅にとっても、従来より実行可能性の高い再生モデルが描きやすくなるという意味で、非常に重要な制度変化です。
タワマン投資に追い風!出口の選択肢が広がる
では、この法改正が「タワーマンションの投資」という観点で何を意味するのか、整理しましょう。
まず、都心・湾岸など駅近・好立地タワーマンションでは、老朽化=リスク要因でしたが、今回の制度変更により“再生可能性”が高まったと言えます。つまり、「出口がひとつだけではない」「建替え・改修・敷地売却など複数の戦略が描ける」点が投資家にとって安心材料となります。
また、敷地を広げて再開発する制度が整えば、既存タワーマンションに隣接する敷地・底地を組み込んだスケールアップ型のプロジェクトも想定可能です。
これはタワーマンション特有の高さ・容積を活かした収益モデルと親和性があります。
その一方で注意すべき点もあります。取得後すぐにキャピタルゲインを見込む投資戦略には慎重であるべきです。なぜなら、制度が整ったとはいえ実際に合意形成・事業化するには時間がかかるためです。
つまり、長期保有を前提とした戦略がより有効という観点が出てきます。
タワーマンションは、賃料収入+将来的な資産価値(再生可能性)という2つの視点で捉えるべきです。
特に富裕層の方、経営者・医師など手元資金に余裕のある方にとっては、タワーマンションを「次世代への資産継承」「事業承継的なマンションポートフォリオの一部」として位置付けることも十分に考えられます。
今回の法改正は、そのような長期展望を描く投資家にとって追い風です。
知っておきたい、再開発投資の注意点
ただし、今回の改正が万能というわけではありません。
まず、合意形成が容易になったとはいえ、決議に必要な3/4以上という基準は依然として高く、実際には区分所有者の高齢化・賃貸化・小口所有化といった実務的課題が残っています。
また、建替えや再生には資金調達・権利調整・住替え先確保・工事期間中の代替住居提供など数多くのハードルがあります。制度が整備されても、実行フェーズの壁は簡単には崩れません。
さらに、タワーマンション特有の「管理費・修繕積立金の高額化」「竣工後の設備更新コスト」「景観・日照・風害リスク」など、長期保有ならではの視点も必要です。
今後の展望では、都市部・駅近立地のタワーマンションは引き続き注目されますが、郊外・立地に難のあるタワーマンションでは、再生可能性の観点から選別が強まると予想されます。
投資戦略としては、今後2〜3年は「割安物件の仕込み期」と捉えるのが賢明でしょう。実需・賃貸需要と再生可能性(容積率緩和・敷地組み込み等)を慎重に見極め、出口シナリオを明確に描いたうえで参入すべきです。
もうひとつ、金融政策・金利動向も無視できません。
高層マンションは資金調達コスト・維持管理コストともに金利に敏感です。将来的な金利上昇リスクを考慮し、キャッシュ購入や固定金利比率を高めるなど、保守的なファイナンス構成が望まれます。
まとめ
今回の改正マンション再開発促進法は、タワーマンション市場にとって“再生可能性”という新たな地平を切り拓くものであり、立地・事業スキーム・投資戦略を明確に描ける方にとっては大きなチャンスです。
一方、制度変化は「始まり」であって実行には時間がかかるため、短期転売狙いではなく、長期保有を視野に入れた戦略設計こそが重要です。次世代資産としてタワーマンションを検討されるなら、まさに今が“仕込み”の時です。
