タワマン節税の終焉?──2024年改正+2026年「5年ルール」で何が変わるか

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「タワマンを買えば相続税が大幅に下がる」──かつて富裕層の間で“常識”とされたこのスキームに、国税庁が本格的にメスを入れています。

2024年1月には居住用マンションの評価方法が改正され、「区分所有補正率」が導入されました。さらに2025年12月に閣議決定された令和8年度税制改正大綱では、賃貸用不動産にも「5年ルール」と呼ばれる新たな規制が盛り込まれています。

タワマン節税は本当に「終焉」を迎えたのか。2段階の改正内容を時系列で整理し、具体的な試算を交えながら「何が封じられ、何がまだ使えるのか」を解説します。

目次

そもそも「タワマン節税」とは何だったのか──仕組みをおさらい

市場価格と相続税評価額の「乖離」を使った節税スキーム

相続税を計算する際、不動産の価値は「相続税評価額」で算定されます。土地は路線価(市場価格の約80%)、建物は固定資産税評価額(市場価格の50〜60%程度)がベースです。

マンションの場合、土地は敷地全体を戸数で割った「敷地権割合」で評価されるため、戸数が多いほど一戸あたりの土地評価額は小さくなります。一方で市場価格は眺望や階数で大きく変わるにもかかわらず、固定資産税評価額にはこうした要素がほとんど反映されていませんでした。

この「市場価格と評価額の乖離」がタワマン節税の本質です。国税庁の調査によると、マンションの市場価格と相続税評価額の平均乖離率は2.34。つまり、1億5,000万円で購入したタワマンが、相続税の計算上は約6,400万円と評価されるケースが珍しくなかったのです。

なぜタワマンの高層階ほど節税効果が大きかったのか

タワーマンションは一般的なマンションよりも総戸数が多く、一戸あたりの敷地権割合が極端に小さくなります。さらに高層階は市場価格が高い一方、固定資産税評価額はほぼ同じ。この二重の乖離によって、「高層階・高価格帯のタワマン」ほど節税効果が大きくなる構造がありました。

例えば、同じマンションの5階(8,000万円)と35階(1億5,000万円)で相続税評価額がどちらも約4,000万円だった場合、35階のほうが1億1,000万円もの評価圧縮を享受できます。これが「タワマン節税」と呼ばれたスキームです。

最高裁判決(2022年)が国税庁を動かした

転機は2022年4月の最高裁判決でした。被相続人が相続直前にタワマン2棟を約13.8億円で購入し、相続税評価額を約3.3億円として申告したケースで、最高裁は国税庁の「総則6項」適用(路線価等によらず時価で評価)を認めました。

この判決により、「ルール通りに評価しても、租税回避目的が明らかなら国税庁は否認できる」という司法判断が確定。同時に、制度そのものの見直しを求める声が高まり、2024年の改正へとつながりました。

【第1弾】2024年1月改正──「区分所有補正率」の導入

評価乖離率の計算式を図解で解説

2024年(令和6年)1月1日以降の相続・贈与から、居住用の区分所有マンションに「区分所有補正率」が適用されるようになりました。

まず、以下の4つの要素から「評価乖離率」を算出します。

評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220

要素計算式意味
A:築年数築年数 × (−0.033)築浅ほど乖離が大きい
B:総階数指数総階数÷33(小数点以下切上)× 0.239高層マンションほど乖離が大きい
C:所在階所在階 × 0.018高層階ほど乖離が大きい
D:敷地持分狭小度敷地利用権面積÷専有面積 × (−1.195)敷地持分が小さいほど乖離が大きい

次に、「評価水準」を求めます。

評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率

この評価水準の値によって、補正のルールが変わります。

評価水準補正の扱い
0.6未満評価乖離率 × 0.6 を補正率として適用(=市場価格の60%まで引き上げ)
0.6〜1.0補正なし(従来通りの評価)
1.0超評価乖離率をそのまま補正率として適用(=評価額を引き下げ)

つまり、タワマンのように市場価格との乖離が大きい物件(評価水準0.6未満)は、相続税評価額が最低でも市場価格の60%になるよう引き上げられる仕組みです。

【具体試算】1.5億円・35階・築3年のタワマンで改正前後を比較

以下の条件で試算してみましょう。

物件条件: – 市場価格:1億5,000万円 – 築年数:3年(2021年新築) – 総階数:44階建て – 所在階:35階 – 専有面積:60m2 – 敷地利用権面積:12m2(敷地3,000m2、持分割合250分の1)

評価乖離率の計算: – A(築年数):3 × (−0.033) = −0.099 – B(総階数指数):44÷33 = 1.33→切上→2 × 0.239 = 0.478 – C(所在階):35 × 0.018 = 0.630 – D(敷地持分狭小度):12÷60 × (−1.195) = −0.239 – 評価乖離率 = −0.099 + 0.478 + 0.630 + (−0.239) + 3.220 = 3.990

評価水準 = 1 ÷ 3.990 = 0.251(0.6未満)

区分所有補正率 = 3.990 × 0.6 = 2.394

項目改正前改正後
従来の相続税評価額約3,750万円約3,750万円
区分所有補正率の適用なし× 2.394
最終的な相続税評価額約3,750万円約8,978万円
市場価格との乖離75%圧縮40%圧縮

改正前は市場価格の25%程度で評価できていたものが、改正後は60%程度になりました。評価圧縮のうまみは大幅に縮小したといえます。

この改正の対象は「居住用」のみ──賃貸用は対象外だった

重要なのは、この2024年改正はあくまで「居住用の区分所有財産」が対象であり、賃貸用として所有するマンションには適用されなかった点です。

つまり、「タワマンを購入→賃貸に出す→賃貸用として評価」というスキームでは、従来通りの低い評価額に加えて貸家建付地・貸家の評価減(さらに約20%の圧縮)も使えるため、節税効果はまだ残っていました。

しかし、この“抜け道”にも2026年の税制改正で手が打たれることになります。

【第2弾】2026年度改正──「賃貸不動産5年ルール」でとどめを刺す

令和8年度税制改正大綱(2025年12月閣議決定)の核心部分

2025年12月に閣議決定された令和8年度税制改正大綱には、不動産を活用した相続税対策に対するさらなる規制が盛り込まれました。

改正の核心は「貸付用不動産の評価方法の見直し」です。これは2024年改正では手つかずだった賃貸用不動産に対する規制で、いわゆる「タワマン節税」「アパマン節税」の残存スキームを封じるものです。

新ルール:取得から5年以内の賃貸用不動産は「取得価額×80%」で評価

改正後の評価ルールは以下の通りです。

対象: 被相続人等が相続開始前(または贈与前)5年以内に取得・新築した貸付用不動産

評価方法: 「通常の取引価額に相当する金額」で評価する。課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%で評価できる。

適用開始: 令和9年(2027年)1月1日以後の相続・贈与から適用

従来であれば、2億円で購入した賃貸用タワマンの相続税評価額は、路線価ベースの土地評価+固定資産税評価額の建物評価に貸家建付地・貸家の減額を適用して、6,000万〜7,000万円程度に圧縮できるケースがありました。

改正後は、取得5年以内であれば「2億円 × 80% = 1億6,000万円」が評価額の基準となります。

評価方法2億円の賃貸タワマンの評価額(目安)
従来の路線価ベース+貸家建付地減額約6,000万〜7,000万円
5年ルール適用後(取得価額×80%)約1億6,000万円
差額9,000万〜1億円の圧縮効果が消滅

不動産小口化商品も同時に規制──取得時期に関係なく時価評価へ

今回の改正では、不動産小口化商品(任意組合型・匿名組合型など)についても評価方法が見直されます。

不動産小口化商品とは、賃貸マンションやオフィスビルなどの不動産を共同で購入し、賃料収入を分け合う投資商品です。1口数百万円から投資でき、路線価ベースの低い相続税評価額が適用されることから、相続税対策として人気がありました。

改正後は取得時期に関係なく「通常の取引価額」で評価されることとなり、小口化商品を使った評価圧縮は事実上不可能になります。

通達改正のスケジュール──2026年中にパブコメ→確定の見通し

この改正は「税制改正大綱」として方針が示された段階であり、実際の運用は財産評価基本通達の改正によって確定します。

  • 202512月: 令和8年度税制改正大綱が閣議決定
  • 2026年中: パブリックコメント(意見公募)を経て通達改正
  • 202711日〜: 改正後の評価ルールが適用開始

現時点(2026年2月)では通達の詳細はまだ確定していませんが、大綱に明記された以上、大枠が変わる可能性は低いと考えられます。すでに保有している賃貸物件については、取得時期のカウントが始まっている点に注意が必要です。

2段階改正の全体像──何が封じられ、何がまだ使えるのか

居住用 vs 賃貸用、取得5年以内 vs 5年超の4象限マトリクス

2つの改正を整理すると、以下のようになります。

 取得から5年以内取得から5年超
居住用(自己居住)区分所有補正率で市場価格の60%まで引き上げ(2024年〜)区分所有補正率で市場価格の60%まで引き上げ(2024年〜)
賃貸用(貸付用)取得価額×80%で評価=大幅な圧縮効果が消滅(2027年〜)従来通りの路線価ベース+貸家建付地減額が可能

この表から読み取れるポイントは3つです。

① 「買ってすぐ相続」スキームはほぼ完全に封じられた。 居住用は区分所有補正率、賃貸用は5年ルールにより、短期的な評価圧縮はどちらのルートでも困難になりました。

② 5年超の賃貸用」にはまだ一定の圧縮余地がある。 取得から5年を超えた賃貸物件は従来通りの評価方法が使えるため、長期保有を前提とした資産形成であれば、依然として評価圧縮のメリットがあります。

③ 不動産小口化商品は時期に関係なく規制される。 「5年待てばよい」という抜け道は通用せず、小口化商品による節税は事実上終了です。

「5年超の居住用タワマン」であれば一定の評価圧縮は依然有効

長期保有の居住用タワマンについても、区分所有補正率によって評価額は引き上げられますが、それでも市場価格の60%が上限です。つまり、40%の評価圧縮は制度上認められていることになります。

1億5,000万円のタワマンであれば、相続税評価額は約9,000万円。現預金で1億5,000万円を持っているよりも6,000万円の評価差が生まれます。「節税目的ではなく、実際に住む資産として購入し、結果として評価圧縮のメリットも享受する」というスタンスは、改正後も合理的な選択肢です。

小規模宅地等の特例との合わせ技

相続税対策としてさらに効果的なのが、小規模宅地等の特例との組み合わせです。

特例の種類対象面積評価減主な適用要件
特定居住用宅地等330m2まで80%減被相続人が居住していた自宅の敷地。配偶者は無条件適用、同居親族は申告期限まで居住・保有が条件
貸付事業用宅地等200m2まで50%減賃貸事業に使用していた敷地。相続開始前3年超の貸付が原則必要

居住用タワマンの場合、区分所有補正率で引き上げられた後の敷地評価額に対して、さらに80%の減額を受けられる可能性があります。これにより、トータルの評価額はかなり低くなります。

ただし、小規模宅地等の特例には細かい適用要件があるため、事前に税理士と要件の充足を確認することが不可欠です。

生前贈与の選択肢──暦年贈与と相続時精算課税制度の使い分け

タワマンの相続対策として、生前贈与を活用する方法もあります。2024年以降、贈与税制にも改正が入っていることを踏まえて整理します。

制度概要メリット注意点
暦年贈与年間110万円の基礎控除。超過分に贈与税少額を長期にわたり移転できる相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算(2024年改正で3年→7年に延長)
相続時精算課税累計2,500万円まで贈与税非課税。相続時に精算まとまった資産を一度に移転可能。2024年から年間110万円の基礎控除が新設一度選択すると暦年贈与に戻れない。相続時に贈与時の評価額で精算

相続時精算課税制度の場合、贈与時点のマンション評価額で固定されるため、将来的に不動産価格が上昇するエリアであれば、早期に贈与するメリットがあります。ただし、区分所有補正率が適用された後の評価額がベースとなる点は留意が必要です。

「やってはいけない」タワマン節税──否認・課税強化リスクの高い手法

購入→即相続→即売却パターン(最高裁判決の射程)

2022年の最高裁判決で明確に否認されたのが、相続直前にタワマンを購入し、相続後すぐに売却するパターンです。

「路線価による評価が著しく不適当」と認められた場合、国税庁は財産評価基本通達の総則6項を適用し、不動産鑑定評価額(市場価格)で課税できます。判決では約3.3億円の評価額が約12.7億円に修正され、追徴課税は約3億円に上りました。

この判決の射程は「相続直前の購入→相続→即売却」に限らず、租税回避の意図が明らかなケース全般に及ぶと解釈されています。

5年ルール回避を狙った「名義変更」「贈与後の賃貸化」のリスク

5年ルールの適用を回避するために、以下のようなスキームを考える人もいるかもしれません。

  • 居住用として5年以上保有してから賃貸に切り替える
  • 家族間で名義を変更して「新規取得」をリセットする
  • 法人を経由して実質的に個人の資産とする

しかし、こうしたスキームは税務調査で「実質的な取得時期」や「事業の実態」を問われるリスクが高く、否認された場合のペナルティ(重加算税35〜40%)を考えると、見合わない選択です。通達の詳細が確定する前に見切り発車することは特に危険です。

借入金を過度に膨らませるスキームの危険性

タワマン購入を全額借入で行い、「借入金 > 評価額」の状態を作って相続財産を圧縮するスキームも、以前から税務当局に警戒されていました。

5年ルール適用後は取得価額×80%で評価されるため、借入金との差額は大幅に縮小します。レバレッジを効かせた節税の「うまみ」は、もはやリスクに見合いません。

不動産小口化商品の駆け込み購入が無意味な理由

不動産小口化商品は5年ルールとは異なり、取得時期に関係なく時価評価に変更されます。「通達改正前に駆け込みで購入しておこう」と考えても、適用日以降の相続ではすべて新ルールが適用されるため、駆け込みの意味はありません。

まとめ──「節税ありき」から「資産設計の一部」へ発想を転換する

タワマン節税を取り巻く環境をまとめると、以下のようになります。

  • 2022年: 最高裁が露骨な租税回避スキームを否認
  • 20241月〜: 居住用マンションに区分所有補正率を導入。評価額が市場価格の60%を下回らないよう是正
  • 20271月〜(予定): 取得5年以内の賃貸用不動産は取得価額×80%で評価。不動産小口化商品は時期に関係なく時価評価

「タワマンを買えば相続税が劇的に下がる」という時代は確実に終わりに向かっています。しかし、居住用タワマンの40%評価圧縮や、長期保有の賃貸用物件の路線価評価小規模宅地等の特例との組み合わせなど、正当な範囲での対策は依然として有効です。

大切なのは、「節税ありき」で不動産を買うのではなく、自分の資産設計・ライフプランの中にタワマンがどう位置づけられるかを先に考え、その上で税務上のメリットを享受するという順序です。

本記事は2026年2月時点の情報に基づいています。令和8年度税制改正の通達詳細は2026年中にパブリックコメントを経て確定予定であり、最終的な内容が変更される可能性があります。個別の相続対策・税務判断は、必ず顧問税理士にご相談ください。

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