生前贈与で贈与税を支払うか、死後に相続税を支払うかは、親にとっても子(孫)にとっても資産を引き継ぐ際の重要な選択です。それぞれの特徴を理解し、適切な方法を選ぶことが大切なため、本記事では、生前贈与と相続税の主な違いについて詳しく説明していきます。
生前贈与と相続税の違い
生前贈与と相続税とでは、大きく分けて下記4つの違いがあります。
- 贈与タイミング
- 税金の種類
- 税率
- 控除額
詳細は下記の通りです。
- 贈与タイミング
-
生前贈与は贈与者の生存中に行われ、相続は贈与者の死後におこなわれます。
- 税金の種類
-
生前贈与には贈与税が、相続には相続税が課されます。
- 税率
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一般的に、生前贈与の方が相続よりも税率が低くなる傾向があります。
- 控除額
-
生前贈与には年間110万円の基礎控除があり、相続には3,000万円+600万円×法定相続人数の基礎控除があります。
さらに、生前贈与には2種類あり、一般的に知られているのが年間110万円までの贈与であれば非課税となる暦年贈与です。生前贈与の2種類について詳しく見ていきましょう。
生前贈与の種類
生前贈与は「暦年贈与」と「相続時精算課税制度」の2種類があり、対象者や相続方法の違いがあるため、しっかりと理解しておきましょう。
また、住宅取得等資金贈与の非課税の特例について知りたい方は、下記記事をご参照ください。
暦年贈与
暦年贈与は、毎年一定額までの贈与を税金がかからずにおこなえる制度です。
- 基礎控除額:年間110万円まで非課税
- 対象者:誰にでも贈与可能
- 特徴:毎年継続的に行うことで、長期的な資産移転が可能
なぜ年間110万円までは非課税になるのかというと、下記のように、基礎控除額が110万円あるからです。
1月1日から12月31日の1年間、贈与額が110万円以下であれば贈与税がかからず、申告も不要となります。もし、110万円を超えてしまった場合は、超えた部分に対して贈与税が課税されることとなります。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は、まとまった財産を一度に贈与する方法です。「生前贈与した財産」と「死後相続した財産」を合算し、相続税を計算します。
- 非課税枠:2,500万円まで
- この金額までの贈与には贈与税がかからない
- 2,500万円を超える部分には一律20%の税率が適用される
- 対象者:60歳以上の親から18歳以上の子(孫)への贈与
- 孫への贈与の場合、親の同意が必要
- 一度この制度を選択すると、その後の贈与も全てこの制度が適用される
- 特徴:生前贈与額と相続財産を合算して相続税を計算
- 贈与時に支払った贈与税は、相続税から控除される
- 相続時に贈与財産の価額が下がっていても、贈与時の価額で相続税の計算に含まれる
相続時精算課税制度は、資産価値が上昇する可能性のある財産を持つ方や、早期の資産移転を考えている方に適しています。しかし、一度、相続時精算課税制度を選択した場合は撤回できないことに加え、贈与時から財産価値が下落していても、贈与を受けたときの価額で相続税が計算されるため、税負担が重くなる可能性があります。
生前贈与の注意点(重要)
暦年贈与は生前贈与の中でもよく知られる贈与方法ですが、注意点もあります。高齢化社会で相続が増えたことを受けて、暦年贈与がきっかけで税務署とトラブルになるとの話を耳にするようになりました。
申告が不要な暦年贈与は、年間110万円以下で贈与したと証明する書類を作る必要がないため、証明書等を用意する人は多くありません。
生前贈与がおこなわれた後、贈与者が死亡した場合、相続発生日から7年以内におこわれた生前贈与は相続財産にカウントされるルールがあり、このルールが原因で遺族と税務署とでトラブルが起きています。
死期を知って、急いで贈与するケースがあるからですね。
意図的ではなくても相続財産に加算されるため、贈与者は早めに家族会議を設け、生前贈与するか、もしくは相続時精算課税制度を利用するか、そのまま相続税を支払うか協議しておくのをおすすめします。
生前贈与を選択する場合は、暦年贈与の申告は不要ですが、「贈与契約書」を作成したうえで贈与した方がよいでしょう。
生前贈与と相続税の税率
次に、生前贈与と相続税の税率を紹介します。
生前贈与の税率
生前贈与の税率には、「一般税率」と「特例税率」の2種類があり、祖父から孫への贈与、父から子への贈与は特例税率が適用されます。
生前贈与の税率(特例税率)は下記の通りです。
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
生前贈与と相続とで、どれほどの違いが出てくるか確かめてみましょう。
2,500万円を親から子へと引き継ぐ場合、生前贈与の税率は45%かかります。一方、相続税は15%となり、相続税が有利です。しかし、生前贈与の暦年贈与は無税となるため、計画を立てて年間110万円以下の贈与にし、贈与契約書を作成するとよいでしょう。
2,500万円を暦年贈与にすると約23年必要です!
また、資産1億円の方が生前贈与・相続する場合は、下記のように考えます。
【生前贈与の場合】
1億円-110万円(基礎控除)=9,890万円(課税対象)
9,890万円×55%(税率)-640万円(控除額)=約4,800万円(贈与税)
【生前贈与_相続時精算課税制度を利用した場合】
1億円-2,500万円(控除額)=7,500万円(課税対象)
7,500万円×20%(相続時精算課税制度を利用した際の税率)=1,500万円(贈与税)
【相続税の場合】
1億円(課税対象)×30%(税率)-700万円(控除額)=2,300万円(贈与税)
1億円で試算した上記の例では、生前贈与の相続時精算課税制度を利用すると税金を抑えられましたが、人によって持っている資産が値上がりするか、値下がりするかは異なるため、一概に相続時精算課税制度がよいとは言えません。
生前贈与と相続税のメリットデメリット
生前贈与と相続税の概要がわかったところで、それぞれのメリットデメリットを紹介します。
生前贈与のメリットデメリット
- 計画的な資産移転が可能
- 相続税の課税対象となる財産を減らせる
- 受贈者の生活支援になる
- 贈与者の生活資金が減少する可能性
- 贈与後の資産価値上昇分は課税対象に
- 贈与税の申告が毎年必要
相続税のメリットデメリット
- 一度に大きな財産移転が可能
- 基礎控除額が大きい
- 相続時精算課税制度の利用可能
- 相続税率が高くなる可能性
- 相続人間での争いの可能性
- 急な相続による受取側の負担
生前贈与と相続税どちらを選択するかは家族と協議して決めよう
生前贈与と相続税は、それぞれに長所と短所があります。どちらを選択するかは、個人の状況や目的によって異なりますが、専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討することが重要です。また、税制の変更や個人の資産状況の変化に応じて、定期的に計画を見直すことも大切です。
家族と話し合いを設け、争いが起きないよう事前に対応しておくことが望まれます。